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浦和地方裁判所 昭和58年(行ウ)8号 判決

原告 五十嵐次雄

〈ほか六名〉

右七名訴訟代理人弁護士 山田幸男

被告 吉川町長 浅子鴻

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 真木吉夫

右両名訴訟復代理人弁護士 佐々木新一

同 城口順二

同 牧野丘

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

「1 被告吉川町長は、吉川町大字吉川字中道上七八四番地一所在幼児教室(代表者長岡朋子)に対し、幼児教室経営のため、別紙物件目録記載の土地及び建物(以下それぞれ「本件土地」、「本件建物」、併せて「本件不動産」という。)を無償で使用させてはならない。

2 被告承継人浅子鴻は、吉川町(以下「町」という。)に対し、金二五八万八〇〇〇円を支払え。

3 訴訟費用は、被告吉川町長及び被告町長承継人浅子(以下便宜併せて「被告ら」という。)の負担とする。」との判決

二  被告ら

(本案前の申立)

「1 原告らの訴えをいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。」の判決

(本案に対する申立)

主文同旨

第二当事者の主張

(原告ら・請求原因)

一  原告らは、いずれも町の住民である。

二  前記幼児教室について

1 本件不動産付近の母親数名は、昭和五〇年ころ、その子らの教育保育のため、本件不動産において、前記第一の一1の権利能力なき社団たる幼児教室(以下右社団及びその運営する幼児教室を「本件教室」という。)を開設した。

本件教室は、学校法人として設立されておらず、幼稚園として認可も受けていない。

2 被告町長は、昭和五一年度以降、本件教室に対して、補助金を交付し、また、本件教室に関し、本件土地の借上料、本件建物の火災保険料及び補修工事費等として、公金を支出し、その合計額(内訳は別紙)は次のとおりである。

年度 合計額

昭和五一年度 一一一万二六〇〇円

昭和五二年度 五四五万四四〇〇円

昭和五三年度 七八〇万九七八〇円

昭和五四年度 九一七万五二一〇円

昭和五五年度 五八九万〇三三三円

昭和五六年度 六八六万九二五八円

昭和五七年度 四二二万八〇〇〇円

3(一) 本件教室は、開設された当初は、一部母親らのボランティアに依存して幼児を教育保育し、三名ないしそれ以上の専任職員を雇用していた。しかし、本件教室は、町の前記補助金及びその他の援助を得て、その設備を年々拡充し、現在においては、幼児数も一〇〇名を超え、町内の学校法人の幼稚園の基準に相当する入園料及び月謝を徴収し、専任保育職員(以下便宜「教員」という。)一〇名、専任事務職員一名をおき、その全員が給与の支給を受け、職員の給与は町内の学校法人の幼稚園の給与水準を超えた地方公務員の基準によって支給するほどに発展した。

(二) これに対し、本件不動産に付設された学童保育室は、新設当初児童数三〇名を見込んだものの、付近の各小学校に学童保育室が付設されてからは、その実績は年々衰微し、ここ数年は、本件不動産は本件教室の専用となっており、よって、本件土地借上料等は、すべて本件教室に対するものとなっている。

三  無償使用

被告町長は、昭和五〇年度、本件土地を賃借し、その上に本件教室に使用させる目的で、約一五〇坪の仮設建物(本件建物)を建築し、本件教室に対し本件不動産を無償で使用させている(以下「本件使用」という。)。

被告町長が、本件教室との間で、後記本件契約を締結していることは、被告ら主張三3のとおりである。

四  被告町長は、本件教室に対し、本件教室を助成するため、昭和五八年度、同町の公金二五八万八〇〇〇円を支出した(以下「本件支出」といい、本件使用と併せて「本件助成」という。)。

五  本件助成は次の点で違法である。

1 憲法八九条違反

(一) 本件教室は、憲法八九条にいう教育の事業を行うものである。

(二) 本件教室は公の支配に属しない。

(1) 学校法人の幼稚園は、国、県、市町村から毎年補助金の支給を受けているが、所管庁の県知事に対し毎年予算執行状況を報告してその監査を受け、執行の適否につき厳格な指導を受けるほか、資産の取得、処分、ときには人事についてまで干渉されて、勧告及び指導(服さないときは、補助の打ち切り・大幅削減)を受けており、これが、国の幼稚園に対する公の支配の基準であると考えられる。

(2) しかし、被告町長の本件教室に対する予算の執行その他経営万般についての監督監査は形式的かつ軽微である。

(3) 本件教室は、昭和五七年度末一〇七三万円余りの基本金を蓄積しているが、これは事業所得の蓄積であり、本来代表者の課税所得である。非法人であるため税の減免の特典もなく、国及び埼玉県(以下「県」という。)の補助もない本件教室がこれだけ蓄積できたのは、納税義務不履行の結果に他ならず、この違法すら看過黙視する監督をもって、本件教室を公の支配に属する事業ということはできない。

(三) 被告ら主張に対する反論

(1) 就園奨励費補助金は、文部省要綱により、幼児の保護者の経済状態に応じて基準額が定められ、手続上は幼稚園を通じて保護者に交付されるものである。しかし、本件教室に対する補助金は保護者に交付された事実がなく、全額本件教室の経営資金に充当されており、右補助金とは性格を異にする。

(2) 仮に、憲法八九条の禁止する公金支出が特恵的性質を含む公金の支出に限られるとしても、町内には個人立の幼稚園類似施設育暎学園があり、本件教室との相違は一個人の経営か複数人の経営であるかの一点のみであるにもかかわらず、被告町長は、本件教室に対しては補助金支給のほか、本件使用、本件建物補修、遊具設置の補助までしながら、個人立施設には一名当たり約七万二〇〇〇円しか支給しておらず、本件教室に対するこれらの助成は、特恵的性質を有する公金支出そのものである。

2 憲法一四条違反

本件助成は、本件教室のみが格別の補助対象となる特段の事由が存在しないのになされた不平等な、教育に対する信条による差別であり、憲法一四条一項に違反する。

(一) 本件教室は、一般家庭の幼児を対象とし、生活困窮者の幼児のみを対象としないばかりでなく、学校法人の幼稚園と大同小異の月謝を徴収しており、公益性の点では、学校法人の幼稚園と同じである。

(二) 助成について、学校法人の幼稚園と比較する。

(1) 学校法人の幼稚園は、国の補助を得てはいるが、莫大な自己資金を投入して設立し、その償却に追われて財政に余裕がなく、低廉な給与しか支給できないでいるのに対し、本件教室は、国の補助は受けていないが、入園料及び月謝を学校法人の幼稚園のそれよりも低額に押え、その差額に層倍する町の助成(補助金、建物無償使用、備品機具購入費)を得ながら、職員に学校法人の幼稚園の給与基準を大幅に上まわる給与を支給している。

(2) 本件教室には、本件不動産の使用を許しているが、学校法人の幼稚園に対する国の補助は、土地の取得費及び園舎建設費を対象としていない。

3 法律違反

(一) 私立学校法五九条、私立学校振興助成法一〇条、同法附則二条五項によれば、①補助助成を受け得るのは、原則として「学校法人」で、②例外的な場合でも当該受給者が近く学校法人設立に至る見込みがあるべきものとされ、また、③助成の方法として無償貸与を排除している。

(二) しかし、本件教室は、学校法人ではなく、町が助成を始めた翌年から五年以内に学校法人として設立してもおらず、また、これに対する本件不動産の貸与は無償である。

(三) 本件教室のみが教育の振興上必要とは認められず、普通地方公共団体の議会といえども、これらの法律に違反する議決は出来ない。

4 本件使用の条例違反

吉川町財産の交換、贈与、無償貸付等に関する条例(昭和三九年三月一二日条例第七号・以下「本件条例」という。)四条一項の定める普通財産の無償貸付対象者は、地方公共団体、公共団体、公共的団体に限られるところ、本件教室は、これに当たらず、本件使用はこの点で本件条例に反する。

六  被告町長承継人浅子は、本件支出当時被告町長の地位にあり、故意又は重大な過失により、その違法性を認識しながら、前記四の支出をし、もって同額の損害を町に与えた。

七  監査請求

1 原告らは、昭和五八年五月四日、町監査委員に対し、町が本件教室に対し又は同教室のために支出し、支出予定の公金につき、憲法八九条違反等を理由として、昭和五七年度の四二二万八〇〇〇円(内訳は、別紙のとおり。)を本件教室から返還を求めるべき旨及び昭和五八年度予算三九二万四〇〇〇円(内訳、本件土地の借上料一三一万七〇〇〇円、本件建物の火災保険料一万九〇〇〇円、補助金前記)の支払防止のため、しかるべき勧告を求めて監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした。

町監査委員は、本件教室には公益性があるから、これら支出に不当性はなく、本件監査請求は理由がないと判断し、昭和五八年六月二九日その旨を原告らにあて通知し、かつ、公表した。

2 本件不動産の使用差止が、本件監査請求に直接包含されていなかったことは、被告町長主張のとおりであるが、本件監査請求の対象となった当該行為の前提となる先行行為又はそれを基礎とする後続行為も住民訴訟の対象となると解すべきであり、本件使用は、監査請求の内容と不離一体をなすものであり、同一団体に対する同一目的による助成であること、公金支出差止と共に本件不動産使用差止を監査請求したとしても、後者のみが認容される可能性のないこと、被告町長も第一七回弁論に至るまで異議なく審理に応じてきたこと、訴訟手続上公金支出差止請求(被告町長承継人浅子が訴変更にかかる損害賠償請求訴訟につき、承継)の審理に格別の障害を与える請求ではなかったことを勘案すると、本件監査請求の関連事項として審理の対象とすることは許容されるべきである。

八  本件不動産の使用差止請求に関して、回復し難い損害の存在

本件教室は、個々人の集合体で、法人格を有せず、独自の財産はほとんどなく、構成員は、本件教室名義の債務を個人で負担すべき場合のあることを自覚していないので、本件使用を差し止めないと町の損害は回復困難である。

九  地方自治法二四二条の二第一項四号による損害賠償請求の可否について

被告町長の地方自治法二四三条の二に基づく賠償命令がなく、同条六項による不服申立のできない本件においては、被告町長承継人浅子に対する請求は、次に述べる理由により、許されるべきである。

(一) 地方自治法二四三条の二による審査請求、異議申立及び訴訟は、普通地方公共団体の長の行政処分としての同条所定の賠償命令が存した場合に可能なものであり、この命令がなされなかった場合には、住民としては、同条による賠償の請求ができず、しかも、長に対する損害賠償請求につき、賠償命令を必要とすると、代位請求もできないこと。

(二) そこで、住民は、右命令がなされないことについて、同法二四二条の二による住民訴訟を提起するものであること。

(三) 同法二四二条の二所定の手続による請求についても、同法二四三条の二第一項及び第二項を適用し得ると解されるから、実体法上の責任要件の差に固執する必要のないこと。

(四) 賠償命令に、強制執行力を与えるには、訴訟を提起せざるを得ないと解されるところ、その訴訟における請求権の根拠は同法二四三条の二第一項及び第二項であるから、同条が訴訟による請求権の実現までも排しているとは解されないこと。

(五) 普通地方公共団体の長が、私人たる自己あてに賠償命令を発することが法理論上可能である旨の議論は、権力の掌握者に対し、その自律行為、自浄作用を期待し得ないゆえ、三権が分立された政治の歴史を顧みない観念論であること。

よって、原告らは、被告町長に対し、本件不動産の無償使用差止を、被告町長承継人浅子に対し、町に代位し、町に対する本件支出同額の損害の賠償を求める。

(被告ら・本案前の主張)

一  被告町長に対する訴えについて

請求原因七1の事実は認めるが、本件監査請求は町有不動産の使用差止ではなく、公金の支出を問題とするもので、両者は訴訟の形式を異にするから、原告の被告町長に対する請求については、監査請求がされていない。

二  被告町長承継人浅子に対する訴えについて

町長に対する違法な公金支出を理由とする損害賠償請求は、地方自治法二四三条の二第三項の賠償命令によってなすべきであり、原告ら住民が代位訴訟により直接被告町長承継人浅子に対し、損害賠償を請求することはできない。

すなわち、同条九項は、同条一項所定の場合における同項所定の職員の賠償責任について、民法の規定の適用を排除しているから、右職員の同項所定の行為については、専ら同条の規定による責任だけが問われることとなり、同条三項は、賠償命令につき、除斥期間を設けており、その期間経過後は、同条の規定による賠償責任を一切負担させない趣旨と解されるから、賠償責任は、賠償命令があって初めて発生するといわなければならない。そして、同条一項の規定は特に普通地方公共団体の長を除外する趣旨とはみるべきでないから前記趣旨は本訴にも該当する。

(被告ら・認否及び主張)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二について

1 同二1の事実のうち、本件教室が学校法人として設立されておらず、また、幼稚園として認可を受けていないことは認める。

昭和五〇年四月頃から、吉川町吉川団地自治会を中心として、幼児教育の現状から理想的な子どもの施設を作るべく、幼児教室設置のための運動がなされ、当時すでに幼児教室が存在した近隣市町村の施設を見学する等その熱意は強く、その協力の輪は広がっていった。そしてその住民が中心となって、町民一九〇〇名余りの署名を集め、昭和五〇年九月三日、当時町においては就園希望の幼児が多く、町内にあった私立幼稚園では定員超過で収容不可能な状態となっていたこと、その保育料が高すぎること等の理由から、町議会議長宛公立幼稚園の新設の請願がなされ、同月の町議会において、文教常任委員会委員長が公立幼稚園設置までの措置として幼児教室の開設に積極的に協力するよう報告し、右報告は承認され、公立幼稚園の設置の請願は「趣旨採択」された。被告町長としては、趣旨採択されたものの、予算の関係から即時に公立幼稚園の設置は無理な状況であった。そこで、請願もあり、町議会の承認もあるので、学童保育室(共稼ぎ家庭の小学校一年生から三年生までの児童を放課後に収容保護する施設)用に一教室、幼児教室用に二教室を続けて建築した。

2 本件教室の性格

本件教室は、保護者全員をもってする、権利能力なき社団であって、総会は、全保護者で構成され、多数決の原則が行なわれ、毎年度初めと年度末に開かれ、その各クラス(昭和五九年度、五クラス)の幼児の保護者二名ずつと代表委員一名と職員代金三名をもって構成する運営委員会が平常業務を遂行し、その定例会が月一回開かれ、代表委員は一名一年交替で監査委員二名が運営委員会の業務遂行と財産状況の監査をし、各委員は年度途中で幼児が在園しなくなれば直ちに交替することになっている。

3 同二2の事実のうち、被告町長が、本件教室に関連し、原告主張年度に主張額の公金を支出し、また、補助金(ただし、後記四のもの)として各年度に主張の金員を支出したことは、認めるが、その余は否認する。

4 同二3(一)の事実は、不知又は否認する。

5 同二3(二)の事実は否認する。

昭和五八年九月現在、本件不動産における保育学童は約三〇名であり、その数は開設当初とはほとんどかわらない。

関小学校内には学童保育室はない。

三  同三の事実について

1 同三の事実のうち、被告町長が、本件教室に対し、本件建物のうちの学童保育室用の一教室の使用を許していること、本件教室に使用させる目的で本件建物を建設した点は否認し、その余の事実は認める。

2 被告町長は、前記二1記載の目的をもって、本件土地を賃借し、本件建物を建築したのである。学童保育室設置については、昭和四八年一二月町議会ですでに請願が採択され、さらに、また、昭和五〇年六月町議会において、右請願の予算措置を早急にするよう請願が提出されていた。

3 被告町長は、本件教室との間で、本件不動産について、使用貸借契約を締結し、右契約は更新され、その約定は現在左記のとおりである(以下「本件契約」という。)。

(一) 目的 町に住所を有する幼児の保育

(二) 期間 昭和六〇年四月一日から昭和六二年三月三一日まで、ただし、本期間中であっても公用、その他の事情で必要ある場合、被告町長はいつでも契約を解除できる。

(三) 賃貸物件の譲渡又は転貸禁止 本件教室代表者は、貸借物件をその目的に従って使用し、使用権を譲渡し又は転貸してはならない。

4 なお、本件契約は、学童保育室と幼児教室とでは、利用時間が異なることから、本件土地を共同で利用し、本件建物についても、教室が不足する場合は、相互に他の教室を使用するなど、活動の必要性に応じて、学童保育室と互いに利用しあうことを前提としているものである。

四  同四の事実のうち、被告町長が本件教室に関連して主張年度に主張額の公金を支出したことは認め、その余は否認する。

右支出にかかる補助金は、本件教室に対する補助ではなく、保護者に対して支給する就園奨励補助金である。町としては、就園奨励補助金を交付するについては、非学校法人の場合でも、教育内容から客観的に判断し、学校法人の幼稚園に準ずる幼児教育施設があり、性格上公益性もあると考えられるものに限って、文部省の「就園奨励費補助金交付要綱」を基準として、その三分の二の額を支給しているものであって、その額は保護者の所得額を調査した上確定する。もっとも、この補助金は、手続上、学校法人の幼稚園の場合と同様、一括して本件教室代表者へ交付している。

五  同五の主張は争う。

1(一) 同五1(一)の事実は、否認する。

本件教室は、幼児の保育事業を行なうものである。幼児の教育と保育をその保育内容から区別するのは、学校教育法七七条が幼稚園の目的を「幼稚園は、幼児を保育し、……」とするように困難であるが、地方公共団体には幼児を心身とも健やかに育成する責任があり、その方法は行政庁の自由裁量に属するから、教育と保育の区別についての行政庁の判断は尊重されるべきである。

(二) 同五1(二)(1)の事実は不知、その主張は争う。

(三) 同五1(二)(2)の事実は否認する。

町では、本件教室担当の福祉課員が常時見まわり、資金収支月表を提出させて年度毎に収支決算書報告を受けている。

(同五1(二)(3)の事実については、認否がない。)

(四)(1) 憲法八九条は、特恵的な性質を含む公金の支出、利益の供与を禁止するもので、地方自治法二三二条の二にいう公益上の必要からする助成を禁じるものではない。

(2) 普通地方公共団体は、他の公共団体及び私人に対し、各種の補助及び奨励的措置をなし得、地方自治法二三二条の二は、補助金の支出についても「公益上必要がある場合」になし得るとするが、右要件の存否の判断は、著しい不公正もしくは法令違反が伴わないかぎり、当該地方公共団体の判断が尊重されることが地方自治の本旨に合致する。

本件助成は、児童福祉法一条の定める公益目的の実現のためになされたものである。

(3) 本件建物は、地方自治法二三八条三項にいう普通財産であるから、町議会の承認を得て、無償で使用させることになんら問題はない。

町議会において、前記のとおり、本件教室についても議論されており、また、補助金支出も議会の議決を得ている。

2 同五2頭書の事実は否認し、その主張は争う。

(一) 請求原因五2(一)の事実は否認する。

(二) 同2(二)(1)の事実のうち、国の補助は受けていないことは認め、その余の事実は不知又は否認する。

(三) 同2(二)(2)の事実は否認する。

被告町長は、信条による差別を行ったことはない。学校法人の幼稚園と本件教室とは、その受けている助成の内容、必要性の有無、範囲が同一ではない。学校法人の幼稚園とその就園児の保護者には、県から運営費補助金、就園奨励費がそれぞれ支給されており、その額は単純な園児数による比較でも、本件教室のそれに比べて数倍するのである。被告町長が本件教室及び育暎学園に関連して支出する金員は、学校法人の幼稚園に対する助成との間に存する実質的不平等を減縮させるために行政として認められる裁量権の範囲で行われているものである。

3 同五3の主張は争う。

4 同五4の主張は争う。

原告ら主張の条例にいう公共的団体とは、極めて広い概念であって、その範囲の判断については、当該普通地方公共団体の裁量が許され、その対象が開かれていて、内容が公共性を有し、かつ営利追求を主たる目的としないものであれば公共的団体と認めることができ、本件教室は、これに該当する。

六  同六の事実のうち、被告承継人浅子が本件支出当時町長の地位にあったことは認め、その余は否認する。

七  被告町長に対する差止請求について

被告町長に対する請求は、次の理由により棄却されるべきである。

1 回復困難な損害の不存在

(一) 地方自治法二四二条の二の「回復の困難な損害が生ずるおそれがある場合」は、これと類似の要件を規定する行政事件訴訟法二五条二項と同様、「原状回復又は金銭賠償が不能な場合と社会通念上そのことだけでは填補されないと認められるような著しい損害を被ることが予想される場合」と解するべきである。

本件不動産の使用を本件教室に認めても本件建物が滅失あるいは回復困難な程度に破損することはなく、かつ他の緊急有益な利用が許されない結果を生じて金銭賠償では填補されない障害が生じるという事態となる訳でもないから、本件訴えは、右要件を充さない。

(二) また、右要件の存否は、当該行為を差止めることによる利益と差止めないことの利益を比較考量することにより決せられるべきところ、本件使用差止請求が認められた場合には、現に本件教室に通園する一〇〇名余りの幼児を一堂に収容する施設の確保は不可能であり、その結果するところは重大である。

(三) 仮に本件不動産の使用が違法であるとしても、それは事後的な金銭賠償、原状回復で十二分に補いうるから、地方自治法二四二条の二第一項四号の請求が法律的に可能である以上、同項一号に基づく請求は許されない。

2 行為の完了等

(一) 被告町長は、本件契約により期間を定めて本件不動産を貸し渡しているのであり、右契約の解除を求めるのであればともかく、町は契約期間中本件不動産を本件教室に使用させる義務があるから、被告町長にその差止を求めることは許されない。

(二) 本件不動産の貸渡し行為は、すでに完了し、本件契約が解除された後に明渡請求権が発生するにすぎないから、本件差止請求は許されない。

第三証拠《省略》

理由

一  原告らが、いずれも町の住民であることは、当事者間に争いがない。

(被告町長に対する請求について)

二  本件使用について

1  被告町長が、昭和五〇年度、本件土地を賃借し、その上に本件建物を建築し、本件教室(本件教室の概要については、後記四のとおり。)に対し、本件土地及び本件建物のうちの二教室の使用を許していること、被告町長が、本件教室との間で、本件契約を締結し、同契約の対象が本件土地及び本件建物すべてであることは、当事者間に争いがなく、右事実、後記四2、同五2の事実及び《証拠省略》によれば、被告町長は、学童保育室設置及び本件教室開設のため、本件土地を賃借して、学童保育室用に一教室(以下「学童保育用の一教室」という。)、本件教室用に二教室(以下「幼児教室用の二教室」という。)を建築したもので、本件教室は学童保育室と本件不動産の使用時間帯を異にするよう運営され、本件契約は、学童保育室と共同で本件土地を利用し、建物についても必要に応じて、互いに融通することを前提としているものであることが認められる。

以上の事実によれば、被告町長は、本件教室に対し、本件不動産の使用を許しているということができる。

2  右1の事実を前提として検討する。

学童保育室は、住民の福祉を増進する目的をもって、その利用に供するための公の施設(地方自治法二四四条の二)であり、この公の施設を構成する学童保育室用の一教室と本件土地の賃借権(これが公有財産である点は後記五1のとおり。)は、町が公共用に供している財産であるといえるから、行政財産である。また、本件教室用の一教室は、本件教室に使用させること自体を、公共用に供しているということはできないので、普通財産である。

そうすると、被告町長は、本件契約により本件教室に対し本件教室用の二教室の無償使用を約するとともに学童保育室設置の目的及び用途を妨げない範囲で本件土地及び学童保育室用の一教室について、使用許可処分(同法二三八条の四第四項)をしたものということができる。

三  本案前の申立について

1  監査請求前置

(一)  原告らが昭和五八年五月四日付で、本件監査請求をしたこと、本件監査請求において、原告らが、本件教室に対し又は本件教室のために支出し、支出予定の公金につき、憲法八九条違反等を理由として昭和五七年度の本件土地の借上料、本件建物の火災保険料、補助金の返還、昭和五八年度の本件土地の借上料、本件建物の火災保険料、補助金の支払(本件支出)防止を求めたこと、本件教室に対し交付された公金は、補助金のみであることは当事者間に争いがなく、本件教室に対し、本件土地及び本件建物を本件契約により使用させていることは前記二のとおりであり、また、供与された公の財産は、本件土地の賃借権及び本件建物であることは、後記五1及び同3に述べるとおりである。

以上の事実によれば、原告らは本件監査請求において、本件教室に対する利益の供与の憲法八九条等の違反を問題としたところ、この利益の供与に直接当たるのは、補助金支出のほかは本件使用であるから、原告らが、本件監査請求において、本件使用の前提となる本件土地の借上料の支払、本件建物の火災保険料の支出自体のみを監査請求の対象としたと解するのは適当でなく、憲法八九条違反を理由とする以上本件教室に対する利益の供与を問題とし、本件使用をも対象としたと解するべきであり、本件使用についても、実質的に監査請求を経ているというべきである。

(二)  また、被告町長は、本件監査請求においては、金員の返還及び公金の支出差止が、本件訴えにおいては、本件不動産の使用差止が各求められ、両者は請求の形式を異にするから、本件不動産の使用差止については、監査請求を経ていない旨主張するが、前記のとおり、本件使用について監査請求を経ていると解される以上失当である。

2  行為の完了

被告町長は、本件不動産の貸渡し行為はすでに完了しているから、本件差止請求は許されない旨主張し、右主張は、差止の利益(訴訟要件)の不存在を主張するものと解されるが、差止とは、ある行為がなされる前にこれを止めることのみならず、ある事実状態が継続していることを止めることをも含むと解され、前記二のとおり、本件使用という財産の使用状態は継続しているから、右被告町長の主張は、採用できない。

3  なお、地方自治法二四二条の二の定める訴訟における財務会計行為は普通地方公共団体に対して損害を与えるものであることが必要であるが、訴訟要件としては、定型的に損害を与えるものであれば足り、一般的に具体的損害の発生の有無は本案の問題であって、差止という方法の許否もまた当該行為が違法無効と判断された後の問題であるから、同条一項但書の「回復の困難な損害を生ずるおそれ」の有無は本案の問題というべきである。

また、町に本件契約に基づく義務が存し、本件使用差止が許されないものであるか否かは、本件契約の違法性の有無、程度にかかわる事柄であるから、これもまた本案の問題と解される。

四  本件教室について

1  幼児教室について

《証拠省略》によれば、幼児教室は、最初昭和三七年に千葉県内及び東京都内において発足し、幼児の教育施設の不足等を背景として、昭和五九年には約六五か所(千葉、東京、神奈川、埼玉、大阪)に開設されていたものであり、その発足のきっかけ、組織のあり方等に差異はあるものの、安い費用で、幼児の保護者と職員が協力しながら、よりよい幼児教育のあり方を追求しようとする、幼児の集団保育の場であることが共通点であることが認められる。

2  本件教室開設の経緯

本件教室が学校法人として設立されておらず、幼稚園としての認可を受けていないことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、この事実を左右するに足る証拠はない。

昭和五〇年九月三日、吉川町吉川団地自治会を中心として、一九〇九名の住民が、吉川町に吉川団地が建設されたため幼児数が増加して一部の幼児が幼稚園に入園できない事態が発生したこと及び私立の幼稚園は保育料が高くて負担しきれないことを理由に、町議会に対し、公立幼稚園の設置を請願し、それが文教常任委員会に付託され、同委員長が、右請願の代表者らから意見を聴取したところ、右代表者らからは、小学校就学前に幼児に集団生活を体得させることは必要不可欠であるが、私立の幼稚園に通園するには費用がかさむので、公立幼稚園を設立して欲しい、次年度に公立幼稚園への入園が不可能であるなら、公立幼稚園設置までの間、幼児の母親らが運営する幼児教室を開設したいとの要望がなされ、文教常任委員会は、同月一八日、右請願について審議したところ、公立幼稚園の設置は、当面町の財政上非常に困難であろうから、右請願については趣旨採択、幼児教室の開設については、町は翌年四月の開設に間に合うよう配慮し、積極的に協力するべきである旨の結論に達し、同月二三日その旨町議会に報告したこと。右結論について、町議会議員らには反対意見がなく、右請願については、全員一致で、趣旨採択となったので、被告町長は、本件土地を賃借し、学童保育室用に一教室、本件教室用に二教室をプレハブで建築(本件建物)して、互に本件不動産を利用させることとし、その結果本件不動産において、本件教室が昭和五一年四月に開設されたこと。

3  本件教室の性格等

(一)  権利能力なき社団であること

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、この事実を左右するに足る証拠はない。

本件教室は、吉川町幼児教室と称し、本件教室に入室している幼児の保護者全員及び教員(規約上は「教諭」。)全員をもって構成され、その目的を、本件教室の運営、運営の目標を保育の理念追求と低廉な保育料の実現、保育の目標を、保護者は教員の意見を尊重し、教員と保護者とが幼児の心身の健全な育成を図るための保育を実践し、その内容向上のため互に研究し合うこと、本件教室に入室する幼児の資格を原則として町の住民に限り、幼児の入室の選抜は公平に行なうこととし、事務所を本件不動産内に置き、総会(保護者全員及び教員全員をもって構成する最高の意思決定機関。構成員の過半数をもって成立し、議決には出席者の過半数の賛成を要する。決定事項は、年間行事計画、予算の決定(保育料の決定を含む)、決算の承認、運営委員と監査委員の選出等。定例総会を、年度末と年度初めに開く。)、運営委員会(平常業務を遂行する組織で、全体の保護者の中から前年度末に選出された代表委員一名、各クラスから二名ずつ選出された委員一〇名及び職員三名から構成され、運営委員の分担は渉外、総務、事業、文化、書記で月一回以上会合を開く。)、監査委員二名の組織を有し、以上は規約をもって定められており、会計制度及び会計処理についての細則も存すること。

以上の事実によれば、本件教室は、複数の構成員からなり、構成員の変更にもかかわらず、団体そのものが存続し、規約を有し、目的が定められ、名称を有し、住所が定められ、資産については、保育料の定めがあって、団体財産の独立性も確保され、団体としての組織を備え、総会においては多数決の原則が行なわれ、代表者及び運営委員の選出、任期の定め、構成員の資格の定め等団体としての主要な点が確定しているといえるから、権利能力なき社団であるということができる。

(二)  公共的団体であること

地方自治法二条三項二〇号、九六条一三号、一五七条、本件条例四条一項における公共的団体とは、営利追求を主たる目的とせず、公共的活動を営み、活動への参加あるいは活動の対象となる資格を、住居、通勤又は通学地等による他は原則として制限しない、法人若しくは権利能力なき社団又は財団としての組織を備えるものと解されところ、前記(一)、後記五2認定事実及び《証拠省略》によれば、本件教室は、収益をあげて、利潤を構成員に分配することをその目的とはしておらず、公共的課題である幼児の教育活動を営み、幼児の入室資格は、町の住民であることのみで、その選抜を平等に行ない、本件教室の構成員となる資格を幼児の保護者または本件教室教員としており、また、本件教室は権利能力なき社団であるから、本件教室は右公共的団体に該当する。

4  本件教室の運営状況等

被告町長が、本件教室に関し、昭和五一年度以降、別紙内訳のとおり、補助金を交付し、本件土地の借上料、本件建物の火災保険料及び本件建物の補修工事費等として、公金を支出したことは当事者間に争いがない。

(一)  右争いのない事実、《証拠省略》によれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(1) 被告町長は、本件教室の開設当初から、本件教室の公立化を目指し、その布石として、町議会の承認を得て、本件教室に対する補助金を増加して、徐々に本件教室の設備を拡充し、遊具を設置させ、また、本件教室において、他の幼稚園では受け入れなかった障害児の教育を行なわせ、そのため補助金を増加して教員を増員させたが、町内の学校法人の幼稚園らから、それらに対する助成に比べ、差があるとの批判がでたため、昭和五五年ころに本件教室に対する補助金支出について再検討を余儀なくされ、町議会において論議された結果、昭和五五年度以降は、補助金については、文部省の定める就園奨励費補助金要綱を基準として算定して、そのうちの町の負担分である三分の二を支出し、補助金が減額したための不足分を月謝を上げることにより補わせることとなり、また、設備の拡充のための支出は行なわれなくなった。

(2) 被告町長は、本件教室開設以来、本件教室の個々的活動に触れてきた結果、本件教室は幼稚園、保育所とは全く異なり、本件教室の行なっている事業は、特殊教育といってもいいものではないかと理解しており、本件教室の必要性、重要性を大きく認識している保護者の力を発揮させるためにも、町は本件教室に協力すべきであると考え、公立幼稚園の設置は考えていないが、本件訴訟などの問題が解決した時点で本件教室の公立化を具体化したいと考えている。

(3) 本件教室に在室する幼児は、本件教室を開設した昭和五一年度を除き、毎年一〇〇名を超え、昭和五八年度は、年少組が一クラス、年中組が二クラス、年長組が二クラスの計五クラスあり、一クラスあたりの幼児数は二〇名前後(幼稚園の場合は、幼稚園設置基準・昭和三一年文部省令第三二号により、一学級の幼児数は、四〇名以下が原則とされている。)で、職員としては、教員が八名(うち有資格者六名)、事務職員一名がおり、教員の手が足りないときには、随時幼児の母親らのボランティアによりこれを補い、本件教室の運営費は、入園料、月謝及び町からの前記補助金の他に、保護者のボランティア活動によるバザー、廃品回収、食品販売等による利益により賄われているが、毎年欠損を生じている。

(4) 主に学童保育用の一教室において、学童保育が行なわれている。

(二)  被告らは、右補助金は、保護者らに対する就園奨励費補助金であって、本件教室に対するものではない旨主張し、その旨の被告ら本人の供述もあるが、前記認定のとおり、昭和五五年度以降も、就園奨励費補助金要綱が補助金支給額の算定基準とされたにすぎないこと、《証拠省略》によれば、本件教室の町に対する決算報告においても、右補助金は本件教室の収入として計上されていること、本件教室において、経理を担当している水野トクノは、本件教室に関する補助金を、町内の学校法人の幼稚園に入園している幼児の保護者に対する就園奨励費補助金とは性格の異なるものであると認識していることが認められ、右被告らの主張は、採用できない。

五  憲法八九条違反

1  公の財産

(一)  前記四2認定のとおり、本件建物は、町が建設したものであり、町の所有に属するものといえるから、憲法八九条の定める公の財産に該当する。

(二)  土地の賃借権は、財産的価値があり、土地を使用する権利であるという点で、地上権に類似した権利であるから、地方自治法二三八条一項四号の定める「地上権、地役権、鉱業権その他これらに準ずる権利」の「その他これらに準ずる権利」に該当する町の公有財産と解すべきであるから、本件土地の賃借権は、憲法八九条の定める公の財産に該当する。

2  教育の事業

被告らの本件教室は保育を行なっている旨の主張は、本件教室が教育を行なっていない旨の主張ではなく、教育と保育の区別は困難であり、被告町長は本件教室を保育事業を行なうものとして扱うこととしたから、被告町長の右判断を尊重し、本件教室の行なう事業を保育であると評価して、憲法八九条の規定に反しないと解すべきである旨の主張と考えられる。

確かに、幼児に対する教育と保育は、学校教育法が幼稚園を小学校等と並んで学校の一つと規定しながら同法七七条で、「教育」と区別する意味で、「幼稚園は、幼児を『保育』し、適切な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする。」、同法七九条が「幼稚園の保育に関する事項は前二条の規定に従い、監督庁がこれを定める。」、同法八一条六項が「教諭は、幼児の保育をつかさどる。」と定めるように、判然区別しがたい点もあるが、右の保育は幼児に対する保護と教育の有機的一体の働きと解されるから、同法に規定する幼稚園は憲法八九条の定める教育の事業に該当するというべきである。

なお、本件教室が保育事業を行なうものであるか、保育事業が憲法八九条の定める慈善、博愛の事業に該当するか否か等の問題は、本件訴訟において直接問題となっていないので、判断しない。

ところで、

(一)  《証拠省略》によれば、本件教室は、リズム運動、屋外散歩に重点をおく他は、学校法人の幼稚園とほぼ同内容の事業を行なっていること、本件教室と学校法人の幼稚園の異なる点は、本件教室がその構成員たる幼児の保護者と教員全員によって運営され、その保護者と教員全員が子らを一人一人どのように育てていくかよく話し合い、研究する点、幼児の保護者と教員の信頼関係がよく保たれていること等の教育を行なう過程にあること、本件教室に入室している幼児は週六日(週四日(月、火、木、金曜日)五時間一五分、週二日(水、土曜日)三時間三〇分)通室していること(幼稚園の場合、学校教育法施行規則七五条によれば、一学年の教育日数は原則として二二〇日、幼稚園教育要領・昭和三九年三月二三日文部省告示第六九号によれば、一日の教育時間は四時間が標準)が認められる。

(二)  右(一)の事実によれば、本件教室においては、幼稚園における事業とほぼ同様の事業が行なわれているから、教育の事業が行なわれているといえ、そうである以上、本件教室は憲法八九条の定める教育の事業を行なうものといえる。

3  教育の事業の利用に供する

被告町長と本件教室との間で、本件契約がなされていること、本件契約が町に住所を有する幼児の保育を目的としていることは、前記二2のとおりであり、この事実と前記四及び五1の事実によれば、本件契約は、本件教室が教育の事業を行なうための場所を提供するもので、憲法八九条の定める公の財産を教育の事業に対し、その利用に供することにあたるということができる。

4  公の支配

(一)(1)  憲法八九条にいう「公の支配」とは、公の機関が、国民の自由な活動に対し、国民の自律作用による弊害発生の抑制が効果的になされる基盤となる組織及び内容を要求し、あるいは指揮、監督及び処分を行なう等の強制的手段を加え、国民の社会、文化に一定の秩序を与えることをいい、教育における一定の秩序とは、国民が憲法上教育の自由及び教育を受ける権利を有することに鑑み、父母、教員らが教育の自由を確保しつつ、国民が教育の事業により、教育を受け得ることであり、また、右支配により濫費が防止されることとなると解される(以下、公の支配については、教育の事業に関するものに限定して、検討する。)。

考えるに、国民は、憲法上、親として子を教育する自由、教育施設を開設する自由(私立学校設立の自由はこの自由の一つと考えられる。)、教員としての教育の自由(ここでは、教員を学校教育法等の法律上の教員に限らず、教育施設において教育する自由を意味する。)の各権利を有し、これらの権利は、憲法が国家からの自由をその基本としていること(九七条)に鑑みれば、本質的には自由権として国家から干渉されない権利であり、国民はその活動を任意に自発的になし得ることが保障されている。しかし、憲法が二六条により、国民に教育を受ける権利を認め、特に国家(ここでは、国及び普通地方公共団体を意味する。以下同じ。)は子どもの教育を要求する権利に対応し、その充足を要請される立場にあり、また、教育はこれを受ける者の自己実現であると同時に社会全体の発展に資するものであることに鑑みれば、国家が、国民の教育を受ける権利を充足する手立ての一つとして、ある一定の教育の事業を行なう国民に対し、一定の規律を加えることは、憲法上予定されているものと解することができる。そして、右規律を受けるものの行なう教育は、これを受けない者の行なう教育以上に公共性を帯び、また、事業を行なうものは右規律を受けて、公的責務を負うが、その反面、その教育の自由は国家から一定の範囲で正当化され、公金の支出及び公の財産の供与(以下「助成」という。)を受けて(右規律とは別に、助成すること自体に根拠規定が必要なことは、いうまでもない。)、現実的に確保されることになる。これにより、当該教育の事業者は、国家からのある程度の関与を受けるわけではあるが、この場合においても、その教育の自由は保障されなければならない。

そして、憲法八九条は、右規律を受けない教育の事業を行なう者に対する助成を禁じ、これに公的責務を負わせず、これらの者の十全の自由な自己決定、自発性を保障し、これにより、教育の多様性(右が保障されることにより、国家が予定する枠を超えた教育の内容及び形態が発現し得る。)を確保し、規律を受けるものと受けないものとを峻別するものである。

(2) 右に対し、憲法八九条を、戦前のわが国での教育に、国家による強い統制の下、時に軍国主義的又は極端な国家主義的傾向を帯びる面があったことに対する反省から規定されたものと理解し、私法人は設立に際し、必ず統制を受けているから、公の支配を単なる統制とは考えられないとして、公の支配に属する事業とは、その構成、人事、内容および財政等について公の機関から具体的に発言、指導または干渉されるもの、すなわち、国、普通地方公共団体、公社及び公団等が行なう事業(以下「国公立学校」という。)のみであるとする見解がある。

確かに私法人の法律上設立の要件を定めただけでは、当該私法人が公の支配に属しているということはできないが、だからといって公の支配に属する事業を国公立学校に限るのには飛躍がある。もとより、内面的価値に対する文化的営みである教育は、党派的な政治的観念や利害によって左右されてはならないし、憲法が個人の基本的人権を認め、人格の独立を尊重していることに鑑みれば、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げる画一化は憲法一三条、二三条、二六条の規定からも許されるものではなく、これは、前記規律を行なうにおいても同様である。しかし、不当な国家的介入が許されないのは、国公立学校における教育についてもいえることであり、国家が国民による教育の事業に対する助成を機会に右意味における介入を行なうことは許されないことではあるけれども、国家が教育の一定の秩序を守るために国民による教育の事業を規律することが憲法上一切許されず、憲法八九条はこれを徹底するため、助成を禁止するものであると理解するのは早計である。

また、憲法制定議会において、国務大臣金森徳次郎は、公の支配に属するという言葉の意味は、やり放しのやり方のままに学校がおかれていては補助金を出してはならないという意味であり、公の支配に属する事業は、国または公共団体自身ではなくてその監督の下にある別のもので、大部分の私立学校は公の支配に入る旨答弁しているのである。

(3) 原告らは、学校法人の幼稚園は所管庁の県知事に対し毎年予算執行状況を報告してその監査を受け、執行の適否につき厳格な指導を受けるほか、資産の取得、処分、ときには人事についてまで干渉、勧告及び指導(服せざるときは、補助の打ち切り・大幅削減)を受けており、これが、幼稚園に対する国の公の支配の基準であると考えられる旨主張し、これは、学校法人に対する法律上の規律を公の支配の基準である旨主張するものと解されるが、憲法八九条は当該助成を受ける教育の事業が公の支配に属することを要請するのみで、行政機関の行なう規律の根拠が法律でなければならないことまでは規定しておらず、普通地方公共団体における行政機関が、議会のコントロールの下、教育の事業を規律することは、憲法が一律に禁止するところではなく、また、教育(社会教育も含まれると解される。)の事業に対する公の支配が、一般的に、現に学校法人に対して行なわれている規律と同程度でなければならない理由はない。

もっとも、学校法人設立及び認可の要件を法律が定め、これに従い設立の認可がなされることは、規律の重要な手段の一つであるから、本件教室の開設についても、公の支配の有無の観点から検討しなければならないが、開設の際の規制の有無のみにより、公の支配の有無が判断されるわけではない。

(4) 義務教育就学以前の子どもに対する教育事業に対する公の支配について

公の支配は、教育の自由を確保しつつ、国民が教育を受け得るよう、教育の事業を行なうものがこれにふさわしい組織及び事業内容を有するようこれを規律するものであるから、当該事業において問題となる教育の自由、規律の対象たる事業の事業内容により、その態様が変わるものと考えられ、本件教室に対する公の支配の有無を考えるにあたっては、本件教室が義務教育就学以前の子どもたる幼児に対する集団的教育を行なうものであることを考慮しなければならない。

教育は、もともと、憲法の理想の実現を図り、真理と平和を希求する自主的な人間の育成が期待され、普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造と発展に貢献するようなされるものであるから、教育内容の画一性の徹底は必ずしもこの自主的人間の育成や文化の創造と発展に貢献するものではなく、その多様性が望まれるものであり、義務教育の場合は、教育の機会均等を図る観点から、全国的に一定の水準を確保すべき要請があるが、幼児に対する集団的教育は、憲法上、絶対的に必要なものとはされておらず、全国的な一定水準維持の要請はさほど強固なものではなく、また、教育は、各地方の住民に直結した形で、各地方の実情に適応させて行なわせるのがその目的及び本質に適合するものであるところ、幼児に対する教育は、義務教育以上に地域性が強いものである。

そして、親の教育の自由は、子に対する自然的関係(親子の関係)に基づくもので、もとより、子ども自身の利益及び子どもの成長に対する社会公共の利益に反するものであってはならず、また、公教育制度発展の歴史に伴い、その範囲が順次縮小されてはきた(憲法二六条二項の定める義務教育の規定は、親の教育の自由を制約する側面を持つ。)が、幼児に対する教育の場合は、義務教育における場合に比べ、広く認められてよいと考えられる。そして、親は、幼児をいかなる方法、形態において教育するかの選択の自由を有すると解され、このことが、公の機関が与えるべき一定の秩序及びその規律の内容に影響するのである。

したがって、義務教育を受けるべき年齢の子どもに対し小中学校類似施設において学校教育類似の教育が行なわれていては、憲法の要請する教育における一定の秩序が守られているとはいい難いから、当該事業が公の支配に属する事業であるとはいえないし、また、幼稚園については、幼稚園としての全国的な一定水準を維持する必要があるが、義務教育就学以前の子どもに対する集団的教育が幼稚園における教育でなければならない要請はないというべきである。

よって、本件教室のような組織の存在が国のレベルでは予定されていないこと自体は、本件教室が公の支配に属するとみる妨げとならず、本件教室が、公の支配に属するか否かを検討するに当たって考慮されるべき事項としては、①本件教室が、父母、教員が教育の自由を確保しつつ、幼児が教育を受け得る事業内容を備えるよう、公の機関により配慮されているか、②その自律作用により、弊害の発生が効果的に抑制される組織及び内容がその開設及び存続に際し、公の機関から要求されていたか、③教育の事業が健全に行なわれることによって、助成がその本来の目的を果たすよう公の機関が、監督、是正することが制度上予定されていたかで足り、本件教室の開設者たる父母や教員が教育の自由を有していることに鑑みれば、公の機関が、教育の内容を具体的に規律しているか、構成員、運営委員の人事に具体的に関与しているか、本件教室の開設に際し、教育施設の制限的な意味での適正配置が考慮されていたかは、公の支配の有無の観点からは重視すべきではない。

(二)  本件教室に対する公の支配について検討する前提となる事実について

(1) 本件教室開設に関して

前記四の事実、《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

公立幼稚園設置の請願を付託された町議会の文教常任委員会は、右請願の代表者らから意見を聴取し、幼児教室の運営及び活動上の問題点について説明を受け、昭和五〇年九月一八日、請願の代表者らがみさと団地に開設されていた幼児教室を同教室運営状況の検討のため見学したときのメモ及び千葉県内における幼児教室の実態についての資料の写しを同会委員に配付して、右請願について審議し、同月二三日、幼児教室の開設について、積極的に協力すべきである旨町議会に報告した際、町議会議員に対し、幼児教室は幼児の保護者自らが協力して運営するものであると説明され、右メモ及び資料の写しが配付され、その後同会期において、文教常任委員長は、被告町長に対し、本件教室設置の準備進行具合(二五人が発起人、教員三名採用内定、保育料予定額、入園申込受付状況等)、三郷市における幼児教室に対する同市の助成(建物、水道、電気、ガスを三郷市が負担、土地を三郷市が転貸、補助金二八万二〇〇〇円)、私立幼稚園の関係者が反対しているが、開設前の本件教室が予定している一七〇名程度の幼児数なら経営圧迫のおそれはなく適正規模であろう旨発言した上、土地建物の調達問題等についての被告町長の見解を質したところ、被告町長は、自ら母親らからその希望及び運営上の問題点を聴取したこと、土地、建物は町が確保し、遊具設置も協力したい旨の答弁をし、同年一二月議会では、被告町長は本件教室のためプレハブで二教室造る予定である旨答弁したこと。

以上の事実によれば、被告町長は、本件教室開設前に、本件教室の組織及び内容についての知識を有していたと推認し得る。

(2) 前記四の事実、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足る証拠はない。

補助金について再検討された(前記四5(一))ころ、町は、本件教室に対し、会計を、保護者会会計と本件教室の会計に分けること及びそれまで職員は全員運営委員会の構成員であったところ、これを三名にするよう、文書で注意し、本件教室は、昭和五五年一一月一日に規約を改正して、運営委員を保護者一〇名、職員を三名とした。

(3) 《証拠省略》によれば、被告町長は、本件教室の日常の個々の問題を含め、総体としては、町と本件教室の話し合いで、本件教室は運営されており、運営上の問題で、本件教室から要望及び要求がでるが、町はこれに対し、指導をし、説明しており、被告町長の方から本件教室に対し教育内容、方針などについて指示をするのではなく、本件教室の方針などと被告町長の方針などとが結果的に一致しているので、被告町長としては、本件教室の方針を尊重しているという形になっていることが認められる。

(4) 前記四5の事実、《証拠省略》によれば、町は本件教室に対し、予算書の提出と、決算報告をさせてその監査をしているほか、毎月月別収支表を提出させていることが認められる。

(5) 《証拠省略》によれば、本件教室を所管するのは町の福祉課であり、本件建物に付設されている学童保育室も、同課の所管する事業であり、同課の課長又は係長は、本件建物を月一、二回程度見まわり、幼児の数、本件建物の修理の必要性を確認し、日常の運営等について話をしていくこと、本件教室の町との連絡には、代表者と運営委員の渉外係があたっていることが認められる。

(6) また、《証拠省略》によれば、本件支出は、町の補助金などの交付手続等に関する規則(昭和五三年八月二八日規則第一七号、以下「本件規則」という。)及び右規則に基づく昭和五八年度幼児教室入室奨励費補助金交付要領に基づくもので、補助金の実績報告義務は、幼児教室の補助事業が完了した後三〇日以内とされていることが認められる。

(7) 原告らは、本件教室が基本金を蓄積しているとして、本件教室が公の支配に属さないことの証左である旨主張する。しかし、《証拠省略》によれば、基本金は、有形固定資産の評価額、寄付金、現物寄付の評価額、入室一時金の合計額であって、基本金の残高に相当する現金ないし預金債権を本件教室が有している訳ではなく、本件教室が利益を挙げていないことが認められるから、原告らの主張は、その前提を欠くものである。

(三)  右事実及び前記二、四、五1ないし3の事実を前提として以下検討する。

(1) 本件教室は、公共的団体といえるところ、被告町長は、町の区域内の公共的団体等の活動の調整(普通地方公共団体の事務・地方自治法二条三項二〇号、議決事項・九六条一三号)を図るため、これを指揮監督することができ、この場合において必要があるときは、被告町長は、本件教室をして事務の報告をさせ、書類及び帳簿を提出させ及び実地について事務を視察することができ、被告町長は、本件教室の監督上必要な処分をすることができる(同法一五七条)から、被告町長は、本件教室に対し、制度上、活動の調整を図る目的という限定の下、指揮及び監督することができる。

(2) 前記2認定の本件教室においてなされる教育が、幼児に対する長期間にわたるもので、影響力の大きいものであることに鑑みれば、本件教室において教育に実際に従事する者が、一定のレベル以上の教育を行ない得る幼児教育の専門家であることは、本件教室が、教育の事業を行なうにふさわしい内容を有しているというために欠かせない事項であり、また、子どもに対する教育を行なう施設において、教員に、国の定める資格(教諭の資格は、学校教育法、教育職員免許法により、保母の資格は、児童福祉法施行規則、児童福祉法施行令により定まっている。)を要するとすることは事業を教育を行なうにふさわしい内容のものに規律する手段の一つであるところ、本件教室においては、クラス数を上まわる有資格者が幼児の教育に従事している。

(3) 本件教室は、運営委員会に職員が三名加わることにより、その運営に教育者の意見が反映されるもので、また、構成員全員による総会が年二回開かれ、そこで年間行事計画等基本または重要事項が決定される民主的な性格を有し、毎年選出される運営委員会が複数人で構成され、少数者による専断的運営の危険が排除される機構を有するものであるといえるから、本件教室の組織は、教育の事業を行なうにふさわしい内容を有するものといえるところ、前記のとおり町は運営委員の構成について、文書で注意して従わせているが、これは、職員のすべてが運営委員会の構成員となって、長期間本件教室の運営に密接に携わることにより、運営の中心的存在が固定化するのを事前に防止する意味を有し、これは町が、本件教室に対し、現に在室する幼児の保護者が職員と協力して本件教室の運営にあたっていくという幼児教室の特質を維持するによりふさわしい組織を要求したものといえ、町は本件教室の組織について規律しているといい得る。

(4) 被告町長が、本件教室の公立化を考え、議会の承認の下、その布石として、教室の設備を拡充したり、本件教室に障害児教育を行なわせるため、補助金を増加して教員を増加したりしたこと、本件教室の運営上の個々的問題についても町は、本件教室との話し合いにより処理させていること、本件教室の要求や要望に対し、指導し、本件教室を所轄する福祉課の係員が本件教室を月に一、二度見まわり、運営について話をしていくほか、本件不動産に付設されている学童保育室も、福祉課の所管する事業であって、本件教室の活動は位置的に福祉課が監督しやすいものであること、本件教室の会計を月毎に把握していること、また、被告町長自ら本件教室の個々的活動に触れていることなど、町は実質的には本件教室の活動内容を監督し、統制しているということができる。

もっとも、町は、本件教室の具体的教育内容、構成員、人事について、制度的には指揮監督していない。しかし、この点は前述したとおり、学校ではない本件教室が公の支配に属する事業とみる妨げにならない。

(5) 本件教室の主たる物的教育施設たる本件土地の賃借権及び本件建物は公有財産で、公有財産の管理は被告町長の職務で(地方自治法一四九条六号)、右施設の整備は、町自身が行ない、管理しているが、その使用貸借が本件訴訟において問題となっていることから、教育施設の物的内容についての公の支配は、ここでは考慮しない。

(6) 供与された公の財産の使用についての監督

本件契約には、本件教室は、本件不動産を町に住所を有する幼児を保有する目的に従って使用し、この使用権を譲渡し又は転貸してはならない旨の定めがあるところ、福祉課の係員の見まわりに加え、本件不動産に学童保育が付設されていることに鑑みれば、右の目的に則した使用の点については、監督されているということができる。

(7) 本件教室は、補助金を受けているので、監査委員は、必要があると認めるとき、又は被告町長の要求があるときは、本件教室の出納その他の事務の執行で当該財政的援助に係るものを監査することができ、また、監査のため必要があると認めるときは、関係人の出頭を求め、若しくは関係人について調査し、又は関係人に対し帳簿、書類その他の記録の提出を求めることができ(地方自治法一九九条六項、七項)、現に本件教室は、その会計について町の監査を受けている。

(8) 本件支出は、本件規則及び本件規則に基づく昭和五八年度幼児教室入室奨励費補助金交付要領に従ったものであるところ、本件規則によれば、補助事業者は、補助金等の交付決定の内容及びこれに附加した条件に従い、善良な管理者の注意をもって補助事業を遂行し、その遂行状況に関し、被告町長に報告しなければならず、被告町長は、右遂行を命令することができ、補助事業者は、補助事業が完了したとき、又は、補助金の交付の決定に係る会計年度が終了したときは、書面で実績を報告しなければならず、被告町長は、その報告に係る補助事業の成果を調査して、交付すべき補助金の額を確定し、補助事業者が交付の条件等に違反したときは、当該交付の決定の全部又は一部を取り消し、当該取消に係る部分の返還を命ずることができ、補助事業者は、補助事業により取得し、又は効用の増加した不動産等を町長の承認を受けないで、補助金の交付目的に反して使用、譲渡、交換、貸し付け、又は担保に供してはならず、被告町長は、補助事業者に対して報告させ、調査若しくは検査に立ち合わせ、又は職員にその事務所、事業場等に立ち入らせ帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。

本件教室は、右補助事業者にあたるから、右規則に基づく被告町長の監督等を受け、補助金の使途、財産処分の制限等を受けているものであり、本件支出には、具体的使途が定められていないが、本件教室は、その会計の決算を報告し、右会計全体の収支について監査を受けることにより、本件支出の使途について監督されているということができる。

以上検討したところによれば、本件教室は、前記①ないし③の事項を充していると言い得るから、公の支配に属する事業を行なっているということができる。

六  憲法一四条違反

1  前記二、四、五の事実、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができ、この事実を左右するに足る証拠はない。

(一)  本件教室は、これに入室している幼児の保護者と教員からなる権利能力なき社団であり、公立幼稚園設置の肩代りとして開設され、開設の当初よりその公立化が予定されているものであり、町にとって、学校法人の幼稚園及び個人立の幼稚園類似施設育暎学園とは、その開設及び存在の意味あいが異なるものであること。

(二)  本件教室に対し助成が行なわれた理由には、被告町長が保護者の熱意に動かされた点もあるが、本件教室開設当時、一部の幼児が学校法人の幼稚園に入園できない事態が発生し、前記町議会に対する請願が多人数によるものであったことなどから、本件教室の開設を政治上無視できなかった点もあること。

(三)  本件教室は、本件不動産の無償貸与、本件不動産の管理費、遊具設置費の補助、補助金の交付などの助成を受けているが、国及び県からの助成は受けておらず、補助金はその算出方法において他の学校法人の幼稚園に通う幼児の保護者が受けている就園奨励費補助金の三分の二にすぎず、本件土地は学童保育室と共同利用することになっており、補助金により購入した遊具は譲渡などすることが許されておらず、本件教室が公立化した場合には町有財産となることが予定されているといえること。

(四)  学校法人の幼稚園等に対する助成には、園舎などの不動産に関するものは含まれないが、県より運営費補助金が支給され(年額において、おおむね本件教室に関する町の支出の金額を上まわる。)、そこに通う幼児の保護者には就園奨励費補助金が交付されていること。

2  以上の事実を前提として、検討する。

(一)  原告らは、被告町長が本件教室と学校法人の幼稚園及び幼稚園類似施設たる育暎学園とを教育に対する信条により差別していると主張するが、信条とは宗教的信仰、世界観、政治観をいうものと解され、被告町長が本件教室に対し本件助成を行なった前記1(二)の理由をもって、信条による差別ということはできない。

(二)  国民(本件の場合は、法人、個人、権利能力なき社団)の間には、事実的差異が現存するのであるから、一般法規の制定又はその適用において、その事実的差異から生ずる不均等が生ずるのは免れがたいところであり、その不均等に合理的な根拠がある場合には、当該法規の制定又はその適用は憲法一四条一項に違反するものではない。しかも、行政機関が、国民の社会権に対応して助成を行なう場合には、助成を受ける対象の内容、事情などにより、助成の内容、形態を異にすることはもとより許され、事実的差異に応じていかなる助成をいかに行なうかの裁量も合理性の存する範囲で認められてしかるべきものである。

本件についてみれば、前記(一)の事実によれば、本件教室は、他の学校法人の幼稚園等とは、その開設の意義、構成、組織、内容、形態を異にし、これがため、本件教室に対する本件助成もその内容を異にするものであるといえるから、本件助成を憲法一四条一項に違反するものということはできない。

七  法律違反

原告らは、私立学校法五九条、私立学校振興助成法一〇条違反を主張するが、右各条文は学校法人に対する助成の要件を定めるのみで、右各規定以外による公共的団体に対する助成を禁止するものではないところ、前記四2のとおり、本件教室は学校法人ではなく、本件助成はもともとこれと関係なくされたものであるから、原告の主張は採用できない。

また、原告らは、学校法人以外の私立の学校の設置者に対する補助金の交付について定める私立学校振興助成法附則二条五項違反を主張するが、同項にいう学校法人以外の私立の学校とは、学校教育法一〇二条の定める学校法人によって設置されることを要しない幼稚園等の学校をいうと解され、前記四2のとおり、本件教室は学校(幼稚園)でないから、右規定と本件助成とは関係がなく、よって、原告の主張は採用できない(なお、右各法律の合憲性は本訴訟において問題とされず、また、本件助成とは関係がないから、右各法律の助成に関する規定の合憲性については、ここでは判断しない。)。

八  条例違反

原告らは、本件教室が地方公共団体、公共団体、公共的団体のいずれでもないとして、本件契約の本件条例四条一項違反を主張し、本件教室用の二教室が普通財産であるから、この二教室についての本件契約が同条例の適用を受ける。

しかし、前記四4で述べたとおり、本件教室は同条における公共的団体であるから、原告の主張は失当である。

以上のとおり、本件使用につき、原告ら主張の違法事由は認められないから、その余の事実について判断するまでもなく、原告らの被告町長に対する請求は、理由がない。

(被告町長承継人浅子に対する請求)

九  本件支出について

被告町長承継人浅子が、被告町長として、本件支出相当の金額を本件教室に関し支出したことは当事者間に争いがなく、前記四5(二)のとおり、本件支出は本件教室の事業に対するものである。(もっとも、本件支出が保護者に対するものであったとしても、本件支出が本件教室の事業に対する助成の目的または効果を有する限り、本件教室が公の支配に属する事業を行なうものであるかは問題となる。)

一〇  監査請求前置等

1  監査請求前置

前記三1(一)記載のとおり、本件監査請求には本件支出の予定が含まれ、そこで本件支出の防止が求められていたところ、前記九記載のとおり、本件支出がなされたものである。

住民は違法事実を指摘すれば足り、また、本件支出は、本件支出の予定に後続するものといえるから、本件損害賠償請求についても、監査請求を経ていると解することができる。

2  長に対する地方自治法二四二条の二第一項第四号による損害賠償請求について

地方自治法二四三条の二は、同条一項所定の職員の行為について、同条三項に規定する賠償命令以外の手続による責任追及を排除するものではなく、しかも、同条一項所定の職員には普通地方公共団体の長は含まれないと解するのが相当である(最高裁判所第一小法廷判決昭和六一年二月二七日昭和五八年(行ツ)第一三二号)から、被告町長承継人浅子に対して、同法二四二条の二第一項第四号に基づき、損害賠償を請求することは許される。

二 違法性等について

本件支出の違法性(憲法八九条、一四条、私立学校法五九条、私立学校振興助成法一〇条、同法附則二条五項違反)については、前記五ないし七のとおりであって、本件支出につき、原告ら主張の違法事由は認められないから、その余の事実について判断するまでもなく、原告の被告町長承継人浅子に対する請求は、理由がない。

よって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井賢徳 原道子 裁判長裁判官高山晨は、転補のため署名捺印することができない。裁判官 松井賢徳)

〈以下省略〉

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